トレーディング手法

定量的株式取引戦略

定量的株式取引戦略

金融業界で求められる高度IT人材、「クオンツ」の仕事とは?

瀧川氏、相澤氏、高橋氏のスリーショット

瀧川:意外かもしれませんが、世界を見渡しても数理の専門家が金融ビジネスに挑戦するケースが多いんです。例えば、ブラック・ショールズという2人の有名な数理の専門家が知られていますが、1970年代に彼らは1本の方程式を考案し、それによって新しい金融市場が作り出されました。その規模は約600兆ドルにも及ぶといわれています。なお、この方程式を考案したショールズは、のちにノーベル経済学賞にも与り、自ら資産運用ビジネスも始めました。数式を考えて終わりではなく、考えた数式が世の中を変えていく。そこに金融の醍醐味があるのではないかと思います。

高橋:それは面白いですね。

瀧川:他にも、自分の名前が数学の定理に冠されているようなスター研究者、機械学習の分野で有名な大学教授など、多様なバックグラウンドを持つ方が金融ビジネスに参入しています。

高橋:瀧川さんは、野村ホールディングス未来共創推進部で新規事業の開発に携わっているそうですね。これまでのご経歴は?

瀧川:大学では、確率論やその他の数学的な手法を基に、金融商品の将来価格を推定する手法や新たな資産運用手法を数理的に導出する手法を研究する「金融工学」を専攻し、大学院ではコンピューター上に架空の金融マーケットを作り出し、さまざまなシミュレーションを行う「人工市場」の研究をしていました。その後、新卒で野村総合研究所に入社し、研究開発部署に配属。そこから日本銀行、日本IBMを経て、2014年に野村ホールディングスに入社しました。現在は、機械学習や量子コンピューターなどを既存の実務に取り入れるプロジェクトの企画・推進などに携わっています。

瀧川氏

高橋:金融業界において、ITはどのように活用されているのでしょう。

瀧川:資産運用、トレーディング、商品開発、リサーチ、リスク管理からデジタル・マーケティングまで、多岐にわたる業務にITやデータを分析するクオンツが関わっています。金融ビジネスの本質はデータビジネスなので、ITとの関わりが深いんです。

金融業界におけるITとクオンツの活用範囲

瀧川:例えば株式は、「ある企業が発行した株式を、いついくらで買った」という電子データがあり、それによって価値が日々変わっていきます。変動する要因は、その企業に関するニュースかもしれないし、少し前の取引かもしれない。もしかしたら全く違う情報かもしれない。そうしたさまざまなデータを活用しながら、その変動の仕組みを数理的にモデル化するのは、データサイエンスそのものですよね。

高橋:確かにそうですね。

瀧川:年金基金などに代わって、資産の運用を行う「アセットマネジメント」のビジネスにも、データが大きく関わってきます。株式や投資信託など膨大な投資対象がありますが、お客さまの大切なお金をお預かりしている以上、投資先を選定する基準を明確にする必要があります。そのために、企業の財務情報や、金融マーケットの情報、あるいは金融とは一見無関係なデータなど、さまざまな情報を基に、どこにいくら投資するかを計算するための数理的なモデルを構築しています。

高橋:ありとあらゆるデータを使って、ビジネスを展開しているんですね。「金融ビジネスはデータビジネスである」という視点は今までなかったので、新たな発見でした。

最初からすべての能力を備えている必要はない

高橋:相澤さんは、クオンツとしてどんな業務に携わっているのでしょうか。

相澤:「デリバティブ」といわれる金融派生商品の評価モデル分析、評価システムへの実装を行っています。

高橋:デリバティブについて、分かりやすく教えていただけますか?

相澤:金融商品には「株式」「外国為替」「債券」などがありますよね。その価格には流動性があり、売り買いされることによって「今日のドル円レートはいくら」「日経平均株価はいくら」と値段がつきます。

金融商品金融派生商品

相澤氏

瀧川:誤解を恐れずに言いますと、デリバティブというのは、ある種の保険のような商品と考えれば、分かりやすいのかもしれません。将来、株価がいくらになるかは誰にもわかりませんよね。そこで、あらかじめ「3カ月後にこの株をこの価格で買います」という権利を取引するのです。その際、数学的な前提がなければ、取引の権利をいくらで売買するかという価格付けができません。そこで統計や数学の技法を使って、クオンツが価格を計算しているんです。

相澤:デリバティブ評価システムに用いる数値計算ライブラリー(※2)を開発するのが、私の主な業務です。数学的な道具立てや金融工学に基づいて値動きのモデルを計算し、適正価格を導き出しています。

※2=ライブラリー
ある特定の機能を持つプログラムを定型化して、他のプログラムが引用できる状態にしたものを、複数集めてまとめたファイルのこと。


高橋:数理モデルも作れば、検証のためのプログラミング、システムの実装まで行っているのはすごいですね。AtCoderの競技プログラミングコンテストには、情報系の方ばかりではなく、物理や数学を学んできた方も多く参加しています。情報系企業に就職しようと考え、参加するようです。相澤さんは、学生時代からプログラミングを学んでいたのですか?

相澤:学生時代は、講義や研究で簡単なコードを書く程度でした。AtCoderに出合ったのも、社会人になってからです。クオンツには、数理的なモデルに対する理解、モデルを作るための数学的なツールの理解、コードとして書く能力が必要ですが、最初からすべてを兼ね備えた人材はいません。私は物理学をバックグラウンドにしつつ、この仕事を始めてからアルゴリズム構築やプログラミングを必死になって勉強しました。

金融ビジネスで用いるアルゴリズムの考え方とは

高橋:デリバティブの評価システムに使われるアルゴリズムには、どんなものがありますか?

相澤:デリバティブ評価の計算手法は、大きく二つの種類に分けて考えることができます。デリバティブの価格がいくらであれば適正かについての解を数式によって直接的に計算する手法(解析的なアルゴリズム)と、誤差を小さく抑えながら、解の「候補」を求める手法(近似アルゴリズム)の2種類です。

※3=モンテカルロ法
数値計算アルゴリズムの一種。乱数を用いたシミュレーションを繰り返すことにより近似解を求める手法。
※4=有限差分法
数値計算アルゴリズムの一種。微分方程式を差分方程式に変換し、差分方程式を解くことで元の微分方程式の近似解を求める手法。
※5=動的計画法
代表的なアルゴリズムの一つ。解くべき問題を複数の部分問題(小さい問題)に分け、部分問題を順に解いていくことで元の問題の答えを求める手法。


高橋:数学的に解を求められないものを、コンピューターが計算できるところまで細かくし、近似値を求めるという感じですね。

相澤:そうですね。パターンが複雑な金融派生商品では、厳密な評価が難しいんです。コンピューターのマシンパワーによって、シミュレーションなどの数値計算で近似解を求めています。

高橋:しかも、そこに計算速度の向上など、数理的な工夫を加えているわけですよね。とても興味深いです。

高橋氏

相澤:おっしゃる通りです。

高橋:となると、正確に答えを導き出す競技プログラミングとは、ちょっと違う世界かもしれませんね。マラソンマッチのように、長期間にわたって精度を高めるコンテストには少し近いかもしれませんが。

相澤:脳内にあるイメージをアルゴリズムに落とし込み、それを適切かつ素早く実装していく。そのプロセスは、競技プログラミングに似ているように感じます。

高橋:クオンツとしての能力の違いは、どんなところに出るのでしょう。予測の精度ですか?

相澤:クオンツとしての業務によります。運用に数理モデルを使っているクオンツなら、運用成績が重要。マーケット情報を分析して今後の予測を立てるリサーチャーなら、分析結果が現実に即しているか、信頼に値するか。私のようにデリバティブのクオンツであれば、価格評価、リスク評価が正しくできているか、トレーダーが売り買いして利益を残せるか。いずれも計算結果が間違っていたら、損失を発生させてしまいますから、慎重を期す必要があります。

高橋:それは怖いですね。自分が導き出した価格が合っているかどうか、保証もないわけですから。どうやってミスを回避しているのでしょうか。

相澤:入念にテストを重ね、チーム内でもコードレビューをします。それに加えて、数理モデルの検証をするリスクマネジメント部もあります。何重ものチェックがありますが、やはり数理モデルを考えるクオンツの責務は重大です。

瀧川:システム開発会社では多くの場合、要件定義があり、その通りにプログラミングすることが重要とされてきました。でも、証券会社はシステム開発を主眼としているわけではありません。デリバティブの価格付けをはじめ、証券会社として目指すゴールがあり、その手段としてアルゴリズムを使っています。要件定義をしてくれる人はいませんが、そのアルゴリズムの良し悪しは数字として明確な結果が出ます。目的を満たすために自分自身でひたすら創意工夫しなければならない。その分、求められるハードルは高いのではないかと思います。

金融業界以外の技術や事例を持ち込むことで、第一人者になれるかも

高橋:最近は、「アルゴリズム取引」という言葉を耳にするようになりましたよね。競技プログラミングでアルゴリズムを学習した人が金融取引に手を出す際、まずチャレンジするのがアルゴリズム取引ではないかと思います。

相澤:ひと口にアルゴリズム取引といっても、意味が広いので一度整理しておきましょう。金融業界でアルゴリズム取引と言う場合、高橋さんのおっしゃる取引とは違うものを指します。例えば株の大量注文をさばく際、まとめて売ると一気に値下がりし、損をしてしまいますよね。そのため、マーケットのインパクトを抑えつつ、ゆっくり売る必要があるのですが、あまりのんびりしているとマーケットの変動を受けることになる。そこで、マーケット株価の予測をしながら、取引コストを最小化するよう適切に分割して注文を出していきます。このようなコンピューターによる取引の自動執行をアルゴリズム取引と称しています。

瀧川:そういった取引を、金融業界では「高頻度取引」と呼んでいます。こちらは数理モデルというよりも、機材や通信回線などインフラ勝負の取引であるケースも多いです。

高橋:なるほど、理解しました。デリバティブでは、評価モデルやリスク予測の信用を与えるために数式を用いているんですよね。アルゴリズム取引など短期で株式を売買するときの5分後の株価予測は、そういった説明づけが不要なのでしょうか。

瀧川:アルゴリズム取引ではさまざまな取引戦略をお客さまに提示し、お客さま自身にどの取引戦略を採用するかを決定いただく場合が多く、それぞれの取引戦略がどのようなものかという説明付けは必要です。もっとも、分単位あるいは秒単位の取引の仕組みを、情報科学あるいは統計学の用語を使わずに直感的に説明すること自体も難しいですし、企業の競争力の源泉であるアルゴリズムそのものの説明を事細かく求められることはあまりないように思います。

高橋:金融ビジネスでは、最先端の技術を追い続けることが事業の成長につながっているように感じます。最新技術のキャッチアップは、どのように行っているのでしょう。

瀧川:業界内だけでなく、アカデミアのフィールドでもキャッチアップしています。人工知能学会、言語処理学会などにはスポンサーシップも行っています。そこから最先端のテーマを持ち帰り、金融業界でどのように応用できるかクオンツと一緒に展開を考えるというケースもあります。例えば、強化学習や転移学習(※6)のように、他の業界では盛り上がっているけれど、金融業界ではまだまだこれからという領域もあるため、そういった研究も行います。また一部の成果は、米国人工知能学会(AAAI)などの世界のトップカンファレンスで、対外発表もしています。金融業界で生かしきれていない分野はまだまだありますので、全く新しく参入された方が数年のうちに金融ITの第一人者になれる可能性もあります。

※6=転移学習
ある領域で学習したモデルを応用し、別の領域に適合させる技術。通常よりも少ないデータ量で、精度の高い結果を得ることができるとあって、AI分野で注目を集めている。
※7=公理
その他の命題を導き出すための前提として導入される最も基本的な仮定のこと。


高橋:「この技術を応用できるかも」と勘が働くのは、ある種のセンスであり数学的素養ではないかと思います。競技プログラミングにおける、「この問題にはこのアルゴリズムを適用できるんじゃないか」という考え方と近いように感じました。

テーマ株の特徴は?投資戦略はどう考える?

記憶に新しいのはポケモンGO関連でしょう。ポケモンGO開発元の 任天堂(7974) の株価は、発表前の7月前半は1万円台後半で推移していました。しかし、ゲームリリースの情報とその注目度により、7月19日には一気に3万円台の年初来高値をつけることとなりました。その動きを契機として、同時にポケモン関連施設を運営する サノヤスHD(7022) 、ポケモンのアニメーションを手がける イマジカロボットHD(6879) などの関連株も7月19日の任天堂の高値につられるように大きく値上がりしています。

テーマは投資の対象として適切か

株式初心者入門

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金融機関にお金を預けて貯蓄すると、金利がついてお金が増えるといった時代は過去の話です。今や超低金利時代を迎えており、預けるだけでお金を増やすことは難しくなりました。 超低金利時代は今後も続くと予測されているため、自分の将来の生活や老後に備えるためには、自分の資金を資産運用によって増やす必要があります。 今回は、初心者の方に向けて、そもそも資産運用とは何か、資産運用の種類などをご紹介します。

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将来に必要なお金を用意するために、今のうちから資産運用を始めようという方も多いのではないでしょうか。 ところが、資産運用は今ある資産を使って投資するため「貯金がないと始められない」と思っている方も少なくありません。 実は、資産運用のなかには最低数百円から始められるものもあります。 そこで今回は、初心者の方におすすめの少額投資について詳しくご紹介します。

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老後の生活や各ライフイベントに必要な資金を用意するために、資産運用を始める方が増えています。 しかし、資産運用にはさまざまな種類があるため、「どのような方法を選べばよいの?」「どんなメリットがあるの?」など疑問を抱える方も少なくありません。 そこで今回は、資産運用の基本をはじめ、資産運用の必要性、失敗しないコツなどについて詳しくご紹介します。

インフレに備える資産運用戦略
~機関投資家も実践する資産配分とは?~

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「貯蓄から投資へ」という言葉をよく耳にしますが、資産運用の必要性は年々増してきています。その一方で 「運用に興味はあるけれど、何から始めたらいいか分からない」というかたは多いのではないでしょうか。本セ ミナーでは資産運用を行う上でのポイントや商品の選び方などについて詳しく解説させていただきます。大事な お金を増やすため・守るためには何をすればよいか、私たちと一緒に考えていきましょう!

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鍋石 壮汰朗
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様々な情報が行き交う社会において、「投資に興味はあるけれど何を選んだらいいかわからない」というかたは 多いのではないでしょうか。皆さまのお金に対する考え方について正しい知識をつけて判断し、一緒に楽しく学 び考えていきましょう!

セミナー詳細

新宿
(JR線「新宿駅」)

2022年6月5日(日)
10:30~12:00(受付 10:15~)

2022年6月7日(火)
10:30~12:00(受付 10:15~)

2022年6月16日(木)
10:30~12:00(受付 10:定量的株式取引戦略 15~)

2022年6月17日(金)
16:00~17:30(受付 15:45~)

2022年6月21日(火) 定量的株式取引戦略 定量的株式取引戦略
10:30~12:00(受付 10:15~)

2021年7月3日(土)
13:00~14:30(受付 12:45~)

住所:〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-19-5 第二明宝ビル1階(受付)

交通アクセス:JR線「新宿駅」南口 徒歩約5分、都営地下鉄線「新宿駅」7番出口 定量的株式取引戦略 徒歩約3分

福岡
(地下鉄空港線「天神駅」)

2021年3月25日(木)
16:30~18:00(受付 16:15~)

住所:〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1-1-1 アクロス福岡6階

ご注意事項

■NISA・つみたてNISAのご注意事項 NISA・つみたてNISAの口座開設は、金融機関を変更した場合を除き、1人につき1口座に限られ、複数の金融機関にはお申し込みいただけません。金融機関の変更により、複数の金融機関でNISA・つみたてNISAの口座を開設されたことになる場合でも、各年において1つの口座でしかお取引いただけません。
また、NISA・つみたてNISAの口座内に保有されている商品を他の金融機関に移管することもできません。なお、金融機関を変更される年分の勘定にて、既に金融商品をお買付されていた場合、その年分について金融機関を変更することはできません。
NISA・つみたてNISAは選択制であり同一年に両方の適用を受けることはできません。
NISA・つみたてNISAで取扱商品は異なります。あらかじめWEB サイト等にてご確認いただきますようお願いいたします。
つみたてNISAでのお取引は積立契約に基づく定期かつ継続的な方法による買付に限られます。
※その他NISA・つみたてNISAに関するご注意事項の詳細はWEBサイトにてご確認ください。 ■ご来場の際の注意事項 キャンセルや変更がある場合は、必ず前営業日までに開催支店にご連絡いただきますようお願いいたします。また、遅れてのご入場は他のお客さまのご迷惑にもなりますので、開演5分前にはお越しいただきますようお願いいたします。
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オンラインセミナーの録音・録画・撮影はお控えください。

■新型コロナ感染症拡大防止に向けた来店時のお願い ご来店の際は、以下の点につきご理解とご協力をお願いいたします。
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②ご来店時は、マスクの着用と店舗入り口に設置したアルコール消毒液等での手指消毒のご協力をお願いしております。
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③お客さま同士の適度な間隔を保つため、混雑状況により、店舗外で入店をしばらくお待ちいただく場合もございますので、予めご了承ください。 ■ご夫婦等複数での参加の場合はご登録されるメールアドレスを分け、別々にご予約をお願いいたします。

金融業界で求められる高度IT人材、「クオンツ」の仕事とは?

瀧川氏、相澤氏、高橋氏のスリーショット

瀧川:意外かもしれませんが、世界を見渡しても数理の専門家が金融ビジネスに挑戦するケースが多いんです。例えば、ブラック・ショールズという2人の有名な数理の専門家が知られていますが、1970年代に彼らは1本の方程式を考案し、それによって新しい金融市場が作り出されました。その規模は約600兆ドルにも及ぶといわれています。なお、この方程式を考案したショールズは、のちにノーベル経済学賞にも与り、自ら資産運用ビジネスも始めました。数式を考えて終わりではなく、考えた数式が世の中を変えていく。そこに金融の醍醐味があるのではないかと思います。

高橋:それは面白いですね。

瀧川:他にも、自分の名前が数学の定理に冠されているようなスター研究者、機械学習の分野で有名な大学教授など、多様なバックグラウンドを持つ方が金融ビジネスに参入しています。

高橋:瀧川さんは、野村ホールディングス未来共創推進部で新規事業の開発に携わっているそうですね。これまでのご経歴は?

瀧川:大学では、確率論やその他の数学的な手法を基に、金融商品の将来価格を推定する手法や新たな資産運用手法を数理的に導出する手法を研究する「金融工学」を専攻し、大学院ではコンピューター上に架空の金融マーケットを作り出し、さまざまなシミュレーションを行う「人工市場」の研究をしていました。その後、新卒で野村総合研究所に入社し、研究開発部署に配属。そこから日本銀行、日本IBMを経て、2014年に野村ホールディングスに入社しました。現在は、機械学習や量子コンピューターなどを既存の実務に取り入れるプロジェクトの企画・推進などに携わっています。

瀧川氏

高橋:金融業界において、ITはどのように活用されているのでしょう。

瀧川:資産運用、トレーディング、商品開発、リサーチ、リスク管理からデジタル・マーケティングまで、多岐にわたる業務にITやデータを分析するクオンツが関わっています。金融ビジネスの本質はデータビジネスなので、ITとの関わりが深いんです。

金融業界におけるITとクオンツの活用範囲

瀧川:例えば株式は、「ある企業が発行した株式を、いついくらで買った」という電子データがあり、それによって価値が日々変わっていきます。変動する要因は、その企業に関するニュースかもしれないし、少し前の取引かもしれない。もしかしたら全く違う情報かもしれない。そうしたさまざまなデータを活用しながら、その変動の仕組みを数理的にモデル化するのは、データサイエンスそのものですよね。

高橋:確かにそうですね。

瀧川:年金基金などに代わって、資産の運用を行う「アセットマネジメント」のビジネスにも、データが大きく関わってきます。株式や投資信託など膨大な投資対象がありますが、お客さまの大切なお金をお預かりしている以上、投資先を選定する基準を明確にする必要があります。そのために、企業の財務情報や、金融マーケットの情報、あるいは金融とは一見無関係なデータなど、さまざまな情報を基に、どこにいくら投資するかを計算するための数理的なモデルを構築しています。

高橋:ありとあらゆるデータを使って、ビジネスを展開しているんですね。「金融ビジネスはデータビジネスである」という視点は今までなかったので、新たな発見でした。

最初からすべての能力を備えている必要はない

高橋:相澤さんは、クオンツとしてどんな業務に携わっているのでしょうか。

相澤:「デリバティブ」といわれる金融派生商品の評価モデル分析、評価システムへの実装を行っています。

高橋:デリバティブについて、分かりやすく教えていただけますか?

相澤:金融商品には「株式」「外国為替」「債券」などがありますよね。その価格には流動性があり、売り買いされることによって「今日のドル円レートはいくら」「日経平均株価はいくら」と値段がつきます。

金融商品金融派生商品

相澤氏

瀧川:誤解を恐れずに言いますと、デリバティブというのは、ある種の保険のような商品と考えれば、分かりやすいのかもしれません。将来、株価がいくらになるかは誰にもわかりませんよね。そこで、あらかじめ「3カ月後にこの株をこの価格で買います」という権利を取引するのです。その際、数学的な前提がなければ、取引の権利をいくらで売買するかという価格付けができません。そこで統計や数学の技法を使って、クオンツが価格を計算しているんです。

相澤:デリバティブ評価システムに用いる数値計算ライブラリー(※2)を開発するのが、私の主な業務です。数学的な道具立てや金融工学に基づいて値動きのモデルを計算し、適正価格を導き出しています。

※2=ライブラリー
ある特定の機能を持つプログラムを定型化して、他のプログラムが引用できる状態にしたものを、複数集めてまとめたファイルのこと。


高橋:数理モデルも作れば、検証のためのプログラミング、システムの実装まで行っているのはすごいですね。AtCoderの競技プログラミングコンテストには、情報系の方ばかりではなく、物理や数学を学んできた方も多く参加しています。情報系企業に就職しようと考え、参加するようです。相澤さんは、学生時代からプログラミングを学んでいたのですか?

相澤:学生時代は、講義や研究で簡単なコードを書く程度でした。AtCoderに出合ったのも、社会人になってからです。クオンツには、数理的なモデルに対する理解、モデルを作るための数学的なツールの理解、コードとして書く能力が必要ですが、最初からすべてを兼ね備えた人材はいません。私は物理学をバックグラウンドにしつつ、この仕事を始めてからアルゴリズム構築やプログラミングを必死になって勉強しました。

金融ビジネスで用いるアルゴリズムの考え方とは

高橋:デリバティブの評価システムに使われるアルゴリズムには、どんなものがありますか?

相澤:デリバティブ評価の計算手法は、大きく二つの種類に分けて考えることができます。デリバティブの価格がいくらであれば適正かについての解を数式によって直接的に計算する手法(解析的なアルゴリズム)と、誤差を小さく抑えながら、解の「候補」を求める手法(近似アルゴリズム)の2種類です。

※3=モンテカルロ法
数値計算アルゴリズムの一種。乱数を用いたシミュレーションを繰り返すことにより近似解を求める手法。
※4=有限差分法
数値計算アルゴリズムの一種。微分方程式を差分方程式に変換し、差分方程式を解くことで元の微分方程式の近似解を求める手法。
※5=動的計画法
代表的なアルゴリズムの一つ。解くべき問題を複数の部分問題(小さい問題)に分け、部分問題を順に解いていくことで元の問題の答えを求める手法。


高橋:数学的に解を求められないものを、コンピューターが計算できるところまで細かくし、近似値を求めるという感じですね。

相澤:そうですね。パターンが複雑な金融派生商品では、厳密な評価が難しいんです。コンピューターのマシンパワーによって、シミュレーションなどの数値計算で近似解を求めています。

高橋:しかも、そこに計算速度の向上など、数理的な工夫を加えているわけですよね。とても興味深いです。

高橋氏

相澤:おっしゃる通りです。

高橋:となると、正確に答えを導き出す競技プログラミングとは、ちょっと違う世界かもしれませんね。マラソンマッチのように、長期間にわたって精度を高めるコンテストには少し近いかもしれませんが。

相澤:脳内にあるイメージをアルゴリズムに落とし込み、それを適切かつ素早く実装していく。そのプロセスは、競技プログラミングに似ているように感じます。

高橋:クオンツとしての能力の違いは、どんなところに出るのでしょう。予測の精度ですか?

相澤:クオンツとしての業務によります。運用に数理モデルを使っているクオンツなら、運用成績が重要。マーケット情報を分析して今後の予測を立てるリサーチャーなら、分析結果が現実に即しているか、信頼に値するか。私のようにデリバティブのクオンツであれば、価格評価、リスク評価が正しくできているか、トレーダーが売り買いして利益を残せるか。いずれも計算結果が間違っていたら、損失を発生させてしまいますから、慎重を期す必要があります。

高橋:それは怖いですね。自分が導き出した価格が合っているかどうか、保証もないわけですから。どうやってミスを回避しているのでしょうか。

相澤:入念にテストを重ね、チーム内でもコードレビューをします。それに加えて、数理モデルの検証をするリスクマネジメント部もあります。何重ものチェックがありますが、やはり数理モデルを考えるクオンツの責務は重大です。

瀧川:システム開発会社では多くの場合、要件定義があり、その通りにプログラミングすることが重要とされてきました。でも、証券会社はシステム開発を主眼としているわけではありません。デリバティブの価格付けをはじめ、証券会社として目指すゴールがあり、その手段としてアルゴリズムを使っています。要件定義をしてくれる人はいませんが、そのアルゴリズムの良し悪しは数字として明確な結果が出ます。目的を満たすために自分自身でひたすら創意工夫しなければならない。その分、求められるハードルは高いのではないかと思います。

金融業界以外の技術や事例を持ち込むことで、第一人者になれるかも

高橋:最近は、「アルゴリズム取引」という言葉を耳にするようになりましたよね。競技プログラミングでアルゴリズムを学習した人が金融取引に手を出す際、まずチャレンジするのがアルゴリズム取引ではないかと思います。

相澤:ひと口にアルゴリズム取引といっても、意味が広いので一度整理しておきましょう。金融業界でアルゴリズム取引と言う場合、高橋さんのおっしゃる取引とは違うものを指します。例えば株の大量注文をさばく際、まとめて売ると一気に値下がりし、損をしてしまいますよね。そのため、マーケットのインパクトを抑えつつ、ゆっくり売る必要があるのですが、あまりのんびりしているとマーケットの変動を受けることになる。そこで、マーケット株価の予測をしながら、取引コストを最小化するよう適切に分割して注文を出していきます。このようなコンピューターによる取引の自動執行をアルゴリズム取引と称しています。

瀧川:そういった取引を、金融業界では「高頻度取引」と呼んでいます。こちらは数理モデルというよりも、機材や通信回線などインフラ勝負の取引であるケースも多いです。

高橋:なるほど、理解しました。デリバティブでは、評価モデルやリスク予測の信用を与えるために数式を用いているんですよね。アルゴリズム取引など短期で株式を売買するときの5分後の株価予測は、そういった説明づけが不要なのでしょうか。

瀧川:アルゴリズム取引ではさまざまな取引戦略をお客さまに提示し、お客さま自身にどの取引戦略を採用するかを決定いただく場合が多く、それぞれの取引戦略がどのようなものかという説明付けは必要です。もっとも、分単位あるいは秒単位の取引の仕組みを、情報科学あるいは統計学の用語を使わずに直感的に説明すること自体も難しいですし、企業の競争力の源泉であるアルゴリズムそのものの説明を事細かく求められることはあまりないように思います。

高橋:金融ビジネスでは、最先端の技術を追い続けることが事業の成長につながっているように感じます。最新技術のキャッチアップは、どのように行っているのでしょう。

瀧川:業界内だけでなく、アカデミアのフィールドでもキャッチアップしています。人工知能学会、言語処理学会などにはスポンサーシップも行っています。そこから最先端のテーマを持ち帰り、金融業界でどのように応用できるかクオンツと一緒に展開を考えるというケースもあります。例えば、強化学習や転移学習(※6)のように、他の業界では盛り上がっているけれど、金融業界ではまだまだこれからという領域もあるため、そういった研究も行います。また一部の成果は、米国人工知能学会(AAAI)などの世界のトップカンファレンスで、対外発表もしています。金融業界で生かしきれていない分野はまだまだありますので、全く新しく参入された方が数年のうちに金融ITの第一人者になれる可能性もあります。

※6=転移学習
ある領域で学習したモデルを応用し、別の領域に適合させる技術。通常よりも少ないデータ量で、精度の高い結果を得ることができるとあって、AI分野で注目を集めている。
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定量的株式取引戦略
高橋:「この技術を応用できるかも」と勘が働くのは、ある種のセンスであり数学的素養ではないかと思います。競技プログラミングにおける、「この問題にはこのアルゴリズムを適用できるんじゃないか」という考え方と近いように感じました。

テーマ株の特徴は?投資戦略はどう考える?

記憶に新しいのはポケモンGO関連でしょう。ポケモンGO開発元の 任天堂(7974) の株価は、発表前の7月前半は1万円台後半で推移していました。しかし、ゲームリリースの情報とその注目度により、7月19日には一気に3万円台の年初来高値をつけることとなりました。その動きを契機として、同時にポケモン関連施設を運営する サノヤスHD(7022) 、ポケモンのアニメーションを手がける イマジカロボットHD(6879) などの関連株も7月19日の任天堂の高値につられるように大きく値上がりしています。

テーマは投資の対象として適切か

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